澤研究室 構造物性物理学講座 構造物性工学研究グループ
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3中心2電子σ結合の形成に伴う巨大エントロピー変化 (2018年8月 PRB: Rapid Communications に掲載)
  三角格子系化合物では、LiVS2(d2)におけるバナジウム3量体やNaTiO2(d1)におけるチタンの2量体など、d電子数に応じて多彩なクラスターパターンが現れる。これらのクラスターを構成する化学結合は2中心2電子σ結合として理解される。一方、VTe2やNbTe2では層間に強いTe-Te結合が存在しており、TeからVやNbへの電子のトランスファーが生じた結果、d4/3電子状態が実現する。これらの系では低温で"Ribbon Chain"と呼ばれる一次元鎖状のクラスターが出現する。M.-H. Whangboらは、このRibbon Chainを3中心2電子σ結合で形成された複数の直線型3量体の集合体と議論している[1]。相転移のメカニズムはざっくりと、Khomskii-Mizokawaによる"Orbitally induced Peierls transition in spinels [2]"の三角格子版といえば理解していただけるだろうか。こうした奇妙な化学結合の形成に由来した面白い機能や物性が得られないだろうか、というのが本研究の着想である。

  まずは3中心2電子σ結合を形成する新しい候補物質を実現するため、層状Li0.33VS2(d4/3)に着目し、その構造解析・物性測定を行った。結果、低温で図1に示すようなRibbon Chainが出現し、相転移に伴ってΔS = 6.6J/molKもの巨大なエントロピー変化が現れることが明らかになった。この巨大なエントロピー変化は転移に伴うd軌道の占有状態の変化に由来するものと理解できる。こうした大きなエントロピー変化はクラスター化を示す物質では珍しいものではなく、同様に軌道が重要な役割を果たすものと理解できる[3]。しかしながら、Li0.33VS2が既存の物質系と明確に異なるのは、低温相でも高い電気伝導性を維持している点である。3中心2電子σ結合は従来の2中心2電子σ結合と比べて結合が弱いことから、クラスター形成に伴って生じる結合性軌道-非結合性軌道-反結合性軌道間のギャップが小さく、これが低温相でも高い電気伝導性を示す原因と考えられる。電子多自由度があらわに現れにくい金属において、これほどの大きなエントロピー変化を生じる系は極めて珍しく、金属の高熱伝導性を利用した高熱応答性潜熱蓄熱材料などへの応用が期待される。こうした観点から、論文発表と並行して特許申請を完了している。   
  

図1 LiVS2(d2)[3] とLi0.33VS2(d4/3)の比較。

<掲載論文>
"Large entropy change derived from orbitally assisted three-centered two-electron σ bond formation in metallic Li0.33VS2" N. Katayama, S. Tamura, T. Yamaguchi, K. Sugimoto, K. Iida, T. Matsukawa, A. Hoshikawa, T. Ishigaki, S. Kobayashi, Y. Ohta, and H. Sawa Phys. Rev. B 98, 081104(R) (2018).
<特許申請>
[日本国内特許出願] "潜熱蓄熱材料" 片山尚幸, 田村慎也, 澤博 国立大学法人名古屋大学 特願2018-127597(出願日:2018年07月04日)
<参考文献>
[1] M.-H. Whangbo and E. Canadell, J. Am. Chem. Soc. 114, 9587 (1992).
[2] D.I. Khomskii and T. Mizokawa, Phys. Rev. Lett. 94, 156402 (2005).
[3] N. Katayama et al., Phys. Rev. Lett. 103, 146405 (2009).
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