澤研究室 構造物性物理学講座 構造物性工学研究グループ
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層状LiVO2の"幻の三量体"の同定 (2019年12月 Physical Review B に掲載)
 遷移金属化合物の中には、低温で金属原子が寄り集まって「分子」を自発形成することで、非磁性絶縁体へと相転移を示すものが存在する。その典型的な物質である層状LiVO2は1954年にRudorffとBeckerによって発見され、常磁性絶縁体‐非磁性絶縁体転移を示すことなど、基礎的な物性については早くから明らかになっていた。1963年にはJ.B. Goodenoughが対称性の議論に基づいて、低温相ではバナジウム三量体が出現していると予想し、多くの理論家によって三量体化のメカニズムが検討されてきた。LiVO2が比較的高い遍歴性を持っていることに着眼したCDWモデル、スピンパイエルス的なモデル、局在極限を仮定したスピン軌道秩序モデル、トリゴナル分裂と電子相関のシナジー効果モデル、など様々な理論モデルが提案されている。驚くべきは、これら多彩な理論研究が行われる一方で、三量体を結晶学的に実験的に同定したという報告はこれまでに存在しなかったという点である。

 低温相構造の解明を目指した試みが行われなかったわけではない。むしろ、この半世紀強の間、様々なプローブを用いて研究は精力的に行われてきた。EXAFSや電子線回折、単結晶X線回折やPDF解析、NMRに至るまで多彩なプローブが投入されてきた。これらの研究からは三量体化と「矛盾のない」データが得られており、三量体それ自体に疑問を投げかける研究者は多くなかったと理解している。しかし、不思議なことに、三量体を含めた構造解析に成功した報告は皆無であり「幻の三量体」とされてきた。

 こうした状況において、我々は放射光粉末X線回折、単結晶X線回折、そして高エネルギーX線回折(PDF解析)を用いてLiVO2の構造研究を行った。本研究で明らかにしたのは以下の3点である。

  1. LiVO2が三量体を形成していることを結晶学的に明らかにした。
   三量体状態における構造パラメータを提示した。
  2. 三量体は面内方向には長距離秩序を持って出現している。
   一方、積層方向には長距離秩序を持たず、ランダムに現れることを明らかにした。
   この積層方向のランダムネスが、これまでに三量体化が同定されてこなかった理由と思われる。
  3. 類縁物質のLiVS2においても、低温で三量体が現れていることを明らかにした。
   LiVO2とは異なり、三量体はc軸方向に長距離秩序構造を持って現れる。

 半世紀以上にわたるLiVO2の「幻の三量体」の謎を完全に解明した初めての構造研究であり、既存の理論研究に実験的な根拠を与える。また、提案した構造パラメータは今後の実験・理論研究に重要な知見をもたらすと期待している。


LiVO2で実現が確認された三量体構造とPDFパターンのリファインメント結果

今回構築した構造モデルの最大の特徴は『各層で三量体の現れ方に3の自由度がある』点である。
このとき、3層では27の自由度が存在する。まず、1-3層で現れる27の自由度を考慮し、
1-3層と4-6層で現れる三量体パターンが同じになるように構造モデルを構築する((a)に相当)。
すると、(b), (c)のように、三層の厚みに相当する15Å以上で大きな誤差が現れる。
これは、4-6層に現れる三量体パターンの自由度を考慮しなかったことが原因である。

そこで、1-6層で現れうる三量体パターン(729通り)をすべて考慮すると((d)に相当)、
(e)のように、6層の厚みに相当する30Åまでパターンを非常によくフィッティングできる。
この結果は、今回構築した構造モデルのコンセプトが正しいことを明確に示している。

  <掲載論文> "Vanadium trimers randomly aligned along the c-axis direction in layered LiVO2" K. Kojima, N. Katayama, S. Tamura, M. Shiomi and H. Sawa Phys. Rev. B 100, 235120 (2019).
 
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